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23話 綻びる家族 1

last update 最終更新日: 2025-01-07 13:24:46

「あ……! お、お兄様……!」

まさかミハエルに見られていたとは気づかず、真っ青になるシャロン。

「シャロン……一体、どうしたんだ? さっきの姿は、まるでお前らしくないじゃないか」

ミハエルが尋ねると、オリビアは大げさな素振りで否定した。

「いいえ? 今の姿がシャロンの本当の姿ですけど? もしやお兄様は何も御存知無かったのですか? 同じ家族なのに?」

「何だって? それは本当の話か?」

オリビアの話にミハエルは目を見張ると……。

「はぁ!? オリビア! いい加減なこと言うんじゃないわよ!」

再び噛みつくように叫ぶシャロン。

既に頭に血が上っているシャロンは、まともな思考能力を失っていた。ミハエルの眼前で、本性を現してしまったのだ。

「あら? いいの、シャロン。大好きなお兄様の前でそんな態度を取って……ほら、御覧なさい。お兄様ったら……あんなに驚いているじゃないの」

「え……あ!!」

シャロンは振り向き。呆然とした顔で自分を見つめるミハエルとまともに視線が合ってしまった。

その瞬間、一気に冷静さを取り戻す。

「あ、あの違うんです! お兄様! こ、これは……そ、そう! 全てお姉さまがいけないんです! 悪いのは私では無く、目の前にいるお姉さまなんです!」

シャロンはオリビアを指さし、必死で訴える。

「シャロン……」

ミハエルには先程のシャロンの激高した姿が頭から離れずにいた。

佇んでいるとオリビアが追い打ちをかける。

「人を指さし、姉である私を呼び捨てする段階でどちらが悪いか……賢明なお兄様ならお分かりになりますよね?」

(賢明……? 俺が賢明だと?)

オリビエの言葉に、ミハエルの心が大きく揺さぶられる。

ミハエルはオリビアを嫌悪し、無視してきた。オリビアは大好きだった母の命と引き換えに生まれてきたからであった。

だが、それは建前に過ぎない。

本当の理由は、オリビアに対する劣等感だ。ミハエルはフォード家の長男であり、いずれは家督を継ぐ存在。それゆえ父からの期待は厚く、ミハエルはその期待に応えるために勉強も剣術も必死で努力を積み重ねてきた。

剣術の腕前は確かなものになったが、いくら努力してもオリビアに敵わなかったのが勉強だった。

優秀な貴族だけが通える難関大学に入学する為、ミハエルは寝る間も惜しんで勉強したが不合格だった。

けれど、オリビアは違った。左程勉強する素振りも無
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    「勝ったー! アデリーナ様の勝ちだ!」「やった! 暴君が負けたぞ!」「キャーッ! アデリーナ様ー!」「愛していますっ!」ディートリッヒが首を垂れた途端、拍手喝さいが沸き上がった。歓喜に包まれる中、アデリーナはディートリッヒを見下ろす。「ではディートリッヒ様。約束通り、私から婚約破棄させて頂きます。婚約破棄の理由はズバリ、貴方の不貞ということで国王陛下に報告させて頂きますから」その言葉にディートリッヒは青ざめる。「不貞だって!? 冗談じゃないっ! 婚約破棄は受け入れるが、理由を不貞にするのはやめてくれ! 頼む!」ついにプライドを捨てたディートリッヒは地べたに頭を擦りつけた。「今更何をおっしゃているのですか? 決闘に負けたのはディートリッヒ様ですよ? それに私という婚約者がありながら、サンドラさんという方と不貞を働いたではありませんか? 今はこの場にいないようですけど」辺りを見渡すアデリーナ。アデリーナは知らないが、サンドラはあまりにも事が大きくなり過ぎたことが怖くなり、逃げてしまったのだ。「お、おいっ!? 不貞と言うな! 俺と彼女はお前が考えているような関係じゃないぞ! それにこんな大観衆の前で、妙な話をするんじゃない!」「ディートリッヒ様がいくらサンドラさんと男女の関係は無かったと言っても、四六時中、彼女を傍に侍らせていたのは事実! ここにいる皆さんが証人です!」アデリーナは見物している学生たちを見渡した。「そうだ! 俺達が証人だ!」「浮気なんて最低よ!」「言い訳するなっ!」「尻軽男め!」学生たちの間から、ディートリッヒに関するヤジが飛び始める。もはや彼が侯爵家の者だろうが、お構いなしだ。「くっ……! 周りを巻き込むなんて卑怯だぞ!! そ、それに剣術ができるなんて、俺は聞いていない! 騙しやがって!」「別に騙してなどおりません。ディートリッヒ様が知らなかっただけではありませか。まぁ、それも無理ありませんよね? 貴方は少しも私に興味を持っていなかったのですから」アデリーナの冷たい声はディートリッヒの背筋を寒くさせた。「ア、アデリーナ……お、お前……一体……」「そんなことより、まだ婚約破棄の理由にケチをつけるつもりですか? それとも私にとどめを刺されたいのでしょうか?」握りしめていた剣の先を喉元に向ける。「ひぃっ!

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     オリビアとマックスはアデリーナが決闘場所に指定した中庭へとやって来た。「まぁ! すごい人ね!」思わずオリビアは声を上げる。既に中庭には驚くほどの学生たちが集まり、決闘が始まるのを待ち構えていたのだ。「どうやらまだ決闘は始まっていないようだな」「そうね。ディートリッヒ様もアデリーナ様の姿も見えないもの」そのとき突然学生たちが騒ぎ始めた。「あ! 来たぞ!」「ディートリッヒ様だわ!」「侯爵が現れたぞ!」上着を脱ぎ、袖をまくった観衆の前にディートリッヒが現れた。彼の右手には剣が握りしめられている。ディートリッヒは姿を見せるや否や、見物に訪れた学生たちに怒鳴りつけてきた。「おまえたち! 何でここに集まっているんだよ! この決闘は見世物じゃないぞ! どっか行けっ!」するとたちまち、学生たちから非難めいたざわめきが起こる。「聞いた? 今の言い方」「本当に乱暴な方だな」「こんなに血の気が多いとは思わなかった」「まさに暴君だ」「おい! そこのお前! 誰が暴君だ! 聞こえたぞ!」ディートリッヒは怒り叫び、声の聞こえた方角に剣を向けたその時。「ディートリッヒ様! 貴方の相手は私ですよ!」凛とした声が響き渡り、腰に剣を差したアデリーナが現れた。赤い髪を後ろに一つにまとめたアデリーナ。赤い丈の短いジャケットを着用し、白いボトムスにロングブーツ姿のアデリーナはまさに戦う女性騎士の姿そのものだ。途端に学生たちから歓声が沸き上がる。「キャーッ! 素敵!」「なんて美しい姿なの!」「応援してますよ!」「コテンパンにやってください!」もはやディートリッヒを応援する者は誰もいない。全員がアデリーナを応援している。「それにしてもディートリッヒ様。まさかそんな姿で決闘に現れるとは思いませんでした。正直驚きましたわ」アデリーナは腰に腕を当てて、ディートリッヒを見つめる。「黙れ! お前の方こそなんだ? その姿は! 騎士の姿をすれば勝てると思っているなら大間違いだ! お前なんかなぁ、この姿で戦って十分なんだよ! どうせすぐに終わる戦いなんだからな!」ディートリッヒは剣を鞘から引き抜き、切っ先をアデリーナに向ける。「そうですか……私も随分舐められたものですね」「当然だ! 女のくせに決闘なんか申し込みやがって! どうせ格好だけで、剣だってまともに

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   49話 邪魔者ギスラン

    —―15時30分授業が終わると、オリビアは急いで帰り支度を始めた。何しろ、16時からアデリーナとディートリッヒの決闘が始まるのだ。何としてもすぐ近くで見守らなければならない。「ねぇ、オリビア。本当にアデリーナ様の決闘を見に行くの?」隣りの席に座るエレナが心配そうに尋ねてきた。「ええ、当然よ。私はこの目でアデリーナ様の勝負の行方を見守らなければいけないのだから」「そうなのね。でも……ほら、あれを見て」エレナが教室の入り口を指さす。「え? 何かあるの? あら」入り口に視線を移し、オリビアは目を見開いた。他の教室で講義を受けていたはずのギスランが大股でこちらへ近づいて来たのだ。「オリビエ、待たせたな」「え? 私は別に待ってなんかいないけど?」今のオリビエはギスランに全く興味が無い。そこでありのままの気持ちを口にした。「は? 何言ってるんだ。そんなに慌てた様子で帰り支度していたってことは俺のことを待っていたんだろう?」「どうして私がギスランを待たなければいけないのよ」「何だよ。ここ最近様子がおかしいな……もしかして俺が今までお前をあまり構わなかったから心配させようとして、そんな態度を取っているのか?」「本当にギスランのことなんか待っていないわよ。急いでいたのは他に用事があるからよ」「そうよ、オリビアはこれから大事な用事があるのだから。帰りたいなら1人で帰りなさいよ」見かねたエレナが会話に入って来た。「部外者は黙っていてくれ。大体大事な用事だって? 一体これから何があるって言うんだよ。俺は今朝、言ったよな? 放課後シャロンの見舞いに行くって。忘れてしまったのか?」「ええ、覚えているわよ。お見舞いに行くなら、こんなところにいないでさっさと行けばいいでしょう?」「何言ってるんだよ! 俺が1人で行ってどうするんだよ。お前も一緒に来るんだよ!」いきなり右手でオリビアの腕を掴んできた。「ちょっと放してよ!」「いいから帰るぞ、ほら!」乱暴に腕を引っ張るギスランをエレナが止める。「ギスランッ! オリビアに乱暴はやめなさいよ!」その時――「おい。何してるんだよ」突然背後からギスランの左腕がねじりあげられた。「うぁあっ! 痛って!」あまりの痛さに叫ぶギスラン。オリビエアそのすきに腕から逃れた。「大丈夫!? オリビアッ!」エレナが

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   48話 悪女の返上

    「う、うるさい! それはこちらの台詞だ! アデリーナッ! お前こそ逃げたりしたら承知しないからな! 大体そこのお前たち、何見てんだよ! 俺は見世物じゃないんだ! あっちへ行けよ! 一体俺を誰だと思っているんだ!」ディートリッヒは上着を脱ぐと、周りで見ていた学生たちに向かって振り回し始めたのだ。「うわ! ついにおかしくなったぞ!」「八つ当たりし始めた!」「早く行きましょう!」学生たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていき、再びディートリッヒはアデリーナを睨みつけてきた。「くそっ! お前のせいで俺の評判がガタ落ちだ! 絶対にお前を倒してやる!」吐き捨てるように言うとディートリッヒは逃げるように走り出した。「え!? 待ってください! 置いていかないで! ディートリッヒ様!」サンドラも慌てて後を追いかけ、その場に残されたのはオリビエアとアデリーナの2人だけとなる。そこでようやく、オリビアは背を向けているアデリーナに駆け寄った。「アデリーナ様っ!」「え? まぁ! オリビアさん! いつからそこにいたの?」アデリーナは驚きで目を見開く。「アデリーナ様がディートリッヒ様に決闘を申し込んだあたりからです」「そうだったのね? 何だか恥ずかしいところを見られてしまったわね」頬を赤らめるアデリーナにオリビアは首を振る。「いいえ! そんなことはありません! むしろ、とても格好良かったです、最高に素敵でした!」「フフ、ありがとう。オリビアさんにそんな風に言って貰えると嬉しいわ」「ですが決闘なんて……しかも剣術での決闘ですよ? 相手はディートリッヒ様ですよ? 周りの人たちの話ではディートリッヒ様の剣術の腕前は中々だと評判でした。そんな方を相手になんて……。今日決闘をするなら、剣術の特訓だって出来ませんよ?」オリビアの目からは、とてもではないがアデリーナが剣で戦えるとは思えなかったのだ。「オリビアさん、私のことをそんなに心配してくれるのね? でも大丈夫よ。勝てない勝負をするつもりも無いから。私を信じてくれるかしら?」「……分かりました。 私、アデリーナ様のことを信じます! 絶対にあんな男に負けないで下さいね!」「あんな男……ね。フフフ、オリビアさんも言うようになったじゃない?」「はい、私が変われたのはアデリーナ様のお陰ですから」「そう言って貰えると嬉

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   47話 決闘方法とクズな男

    「ほう~俺が決闘内容を決めて良いというのか? 随分と余裕があるじゃないか?」ディートリッヒの挑戦的な言葉に、アデリーナはフッと笑う。「一応貴方はまだ私の婚約者ですからね。せめてもの恩情です。さ、どれになさいますか? 馬術、剣術? それとも学力試験で競い合いましょうか? カードで勝負するのも良いかもしれませんね?」「な、なんて生意気な女だ……いいだろう、なら俺から決闘方法を選ばせてもらおう」「ええ、どうぞ」「そうだな、なら……」ディートリッヒは偉そうな態度を取ってはいるが、心中は全く余裕が無かった。彼は心底、今のアデリーナに怯えていたのだった。(一体、アデリーナの堂々とした態度は何だっていうんだ? いや、違うな。この女は昔からふてぶてしい態度を取り続けていた。いつも何処か俺を見下したような態度を取って全く可愛げが無い生意気な女だった。だから俺は外見は可愛くて、頭が空っぽそうなサンドラにちょっと声をかけただけなのに……)自分の腕にしがみつき、すがるような目を向けてくるサンドラをうんざりした気分でチラリと見る。本当は、とっくにサンドラに飽きてしまって今すぐ縁を切りたい位なのに、世間では恋人同士と認識されているのでそれすら出来ない。「ディートリッヒ様、私どんな勝負でも貴方が勝てるって信じてますから」猫なで声を出すサンドラに、ディートリッヒは心の中で舌打ちする。(チッ! 人の気も知らないで、いい気なもんだ。サンドラがこんなに馬鹿だとは思わなかった。自分の立場もわきまえず、いい気になりやがって。周囲に俺と恋人同士になったと言いふらし、いつでもどこでも付きまとってくるから、切りたくても切れやしない。元はといえばサンドラのせいで俺がこんな目に遭っているっていうのに)呆れたことに、ディートリッヒは自分の浮気を全てアデリーナとサンドラのせいにしていたのだ。「どうしたのです? ディートリッヒ様。早く決闘方法を決めて下さりませんか? これ以上無駄な時間を費やしたくはありませんので、もし決められないのなら私が決めてしまいますよ?」アデリーナの催促に増々焦りが募る。「う、うるさい! 何が無駄な時間だ! こっちはなぁ、どんな決闘なら少しでもお前が有利に戦えるかって、さっきからずっと考えているんだよ!」「あら、そうですか? それはお気遣いありがとうございます。

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   46話 決闘の申し込み

    「決闘だって!?」「侯爵令嬢が決闘を申し出たわ!」「これは大事件だ!」集まる学生たちは、目の色を変えて大騒ぎを始めた。赤い髪を風になびかせ、学生たちの好奇の視線を浴びるアデリーナの姿はオリビアの心を震わせた。(アデリーナ様……素敵! 素敵すぎるわ! あの凛々しいお姿……まさにこの世の奇跡だわ……)アデリーナの姿に感銘を受けたのはオリビアだけではない。女子学生たちの見る目も変わってきていた。「何だか……ちょっと素敵じゃない?」「ええ、誰が悪女なんて言ったのかしら」「私、好きになってしまいそう……」余裕の態度のアデリーナに対し、ディートリッヒは青ざめていた。けれどそれは無理も無い話だろう。決闘を申し込んできたのは女性、しかも婚約者なのだから。「ア、アデリーナッ! お前、本気で俺に決闘を申し込んでいるのか!?」「ええ、そうです。あなたのせいで私の大切な友人が手を怪我したのですから当然です!」その言葉にオリビアは衝撃を受けた。(え!? まさか決闘って……私の為だったの!?)一方、面食らうのはディートリッヒ。「何だって!? 俺は誰も怪我させたりなどしていないぞ! 言いがかりをつけるな!」「確かに、直接手を下したわけではありませんが……ディートリッヒ様! 貴方のせいで彼女が怪我をしたのは確かです! それに手袋を拾った以上、決闘の申し込みを受けて頂きます!」「くっ……」大勢のギャラリーに見守られ、逃げ場がないディートリッヒ。「そ、それじゃ……勝者にはどんな得があるんだ?」「そうですね。もしディートリッヒ様が私に勝てば、どんな命令にも従いましょう」「そうか。ならもし俺が勝ったら地べたに這いつくばって、サンドラに詫びを入れて貰おう」「ディートリッヒ様……」サンドラが頬を赤らめ、周囲のざわめきが大きくなる。「おい、聞いたか? 謝れだってよ」「そんな……侯爵令嬢が男爵令嬢に謝るなんて」「これは屈辱だな」「ええ、良いでしょう。地べたに這いつくばるなり、何なりとしてあげますわ。それどころか1日、サンドラさんのメイドになって差し上げてもよろしくてよ?」「ほ、本当ですか? 本当に……私のメイドになってくれるのですね?」サンドラが図々しくもアデリーナに尋ねてくる。「ええ、ただし私が負けたらですけど?」毅然と頷くアデリーナに、ディート

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